広島ガスの仕事 :
廿日市工場桟橋機能拡大工事

廿日市工場桟橋機能拡大工事

都市ガスの主な原料「天然ガス」は世界各地に豊富に存在し、可採年数は約53年と言われ、中東地域以外からも確保が可能なエネルギーです。わが国の都市ガス事業者は、主に環太平洋諸国から長期契約に基づいてLNG(液化天然ガス)を輸入し、安定供給に努めています。

【工事完成図】

 廿日市工場は定期的に小型船からLNGを受け入れているため、既存の桟橋を使用しながら同時に桟橋機能拡大工事を行うという、他に類を見ない困難な工事となりました。港湾計画等もふまえた設計を経て、2012年11月に着工しました。桟橋拡張工事(土木工事)、受入設備増強工事(機械工事)を順次行い、2015年10月に全工事が完了しました。
【小型船 着桟イメージ】
【標準LNG船 着桟イメージ】
廿日市工場、備後工場、東広島製造所で都市ガスを製造しており、LNG(液化天然ガス)受け入れやガスの製造などは中央制御室で集中的にコントロールしています。また、毎日の設備点検、定期的な保守や有事に備えた訓練を行うことで、安全かつ効率的に都市ガスを製造する体制を整えています。
 標準船に対応するため、既存桟橋を東西へ拡張し、桟橋中央のワーキングプラットホームを増床するドルフィン式桟橋の増築などを行いました。以下の土木工事により、桟橋を247mから427mまで拡張しました。

1)鋼管杭打設工事

 桟橋の増築工事は、まず桟橋下部の鋼管杭の打ち込み作業を行いました。杭は大きなもので直径1.3m、長さ約60m、重さ約20tという巨大なものです。全部で105本もの杭を海面から深さ約50mの基盤層と呼ばれる強固な地盤まで打ち込みますが、位置や角度を合わせることが難しい作業でした。

【鋼管杭打設】
鋼管杭打設

2)上部工事

 打ち込んだ杭の上に、床となるコンクリート構造物を構築しました。長期間の使用に耐えるよう、桟橋の設計耐用年数は約50年とし、エポキシ樹脂塗装を施した鉄筋を使用するなど工夫を凝らしました。

3)ワーキングプラットホーム拡張工事

 標準船対応の機械設備を設置するために、ワーキングプラットホームの大きさを約2倍に増床する必要がありました。しかし、増床範囲に含まれる既存桟橋は工事中も継続使用する必要があり、事前に撤去ができなかったので、既存桟橋上については、高耐力のプレストレストコンクリート床を架ける工法を採用しました(下記写真および図を参照)。これにより短期間での現地施工が可能となり、LNGの受入に支障をきたすことなく工事を完了させることができました。

【ワーキングプラットホーム拡張工事】
ワーキングプラットホーム拡張工事
 土木工事終了後は、大型のローディングアーム(LNG荷役装置)や配管設備など、標準船からLNGを受け入れるための機械設備を設置しました。小型船によるLNG受入と並行して工事を進めるため、新設備への切り替えを考慮した「STEP1工事」と「STEP2工事」の2工程に分け、各工程を短い期間で行えるように工夫しました。

1)STEP1工事(増床部分に機械設備の一部を設置)

 新たに増床したワーキングプラットホームに、小型船と標準船のどちらにも対応できる受入設備の一部を新設し、切り替えを行いました。あわせて、既存の電気・計装制御システムや配電設備の改造や試運転も必要でした。これらの作業をLNG船の配船調整で確保した1ヶ月間で行うため、工事施工者、廿日市工場、 LNG船関係者などと熟考を重ね、綿密な計画を練り、周到な準備を整え、関係者との連携作業の下、無事切り替えを完了しました。

2)STEP2工事(既存部分に残る機械設備を設置)

 既存の設備を撤去し、残るローディングアーム1基を新設しました。その他にも、LNG船と桟橋を結ぶ可動式連絡橋(ギャングウェイ)などの付帯設備も設置しました。標準LNG船の受入を可能とする全ての設備を設置し、機械工事は完了しました。

【STEPⅠ、STEPIIのイメージ】
STEPⅠ、STEPⅡのイメージ
 2012年の土木工事着工から機械・電気工事を含め、約3年間に渡り進めてきた工事を、2015年10月末に無事故・無災害で完遂しました。そして、2016年1月21日、プロジェクトの悲願であった標準LNG船が初入港し、現在まで順調にLNG受入および工場操業を継続しています。

【標準LNG船によるLNG初受入】
標準LNG船によるLNG初受入
エンジニアリング部生産技術グループ 橋本浩志
エンジニアリング部
橋本 浩志
エンジニアリング部生産技術グループ 栗本 淳
エンジニアリング部
栗本 淳

当プロジェクトのメイン担当者としての業務を教えてください。

エンジニアリング部 橋本浩志

 土木担当の主な業務は、機械設備などを据付けるための海上桟橋を増築することでした。設計段階では、台風や地震、機械の荷重などに耐えうる桟橋の構造設計、新設備の配置や様々な船舶の係留を想定したレイアウトの検討、関係各所への申請や届出、仕様決定後のメーカー発注などを行いました。設計後の現場工事では、現場の安全管理や構造物の品質管理、また、都市ガスを製造し続ける工場とのスケジュール調整など、現場を円滑に進捗させるための調整業務などを行いました。

エンジニアリング部 栗本 淳

 機械・プロセス担当の主な業務は、標準LNG船からのLNG受入を可能とするため、設備の更新や増設を行うことでした。短時間で大容量のLNGを標準LNG船から工場のタンクへ移送する能力が必要なため、設計段階では、受入配管の口径の大型化や増設など、設備機能の拡大を検討しました。また、LNG船の多様化に伴うレイアウトの検討、関係各所への申請や届出、メーカーへの発注なども行いました。設計後の現場工事では、重機作業や溶接作業といった工事作業時の安全管理、配管やバルブの検査などの品質管理、既存の小型LNG船の受入に伴うスケジュール調整などを行いました。

プロジェクト業務の中で、特に印象に残っていることは、どんなことですか?

エンジニアリング部 橋本浩志

 私はこれだけの大きな建設工事に関わったことがなかったため、本プロジェクトで使用する資機材の大きさや関係者の多さに驚きました。現場工事では設計図はできているものの、様々な条件や詳細部分の検討を進める中で、細かい構造や工事手順は変更することが多々あります。これらは大きな資機材の変更や多くの関係者を巻き込むことになるため、作業における危険の増加や品質低下にもつながる恐れがあり、意見は簡単にはまとまりません。そのため、何度も協議を行い、きめ細かく調整を行う必要がありました。限られたスケジュールの中、無駄なく安全で高品質な工事を行うため、プロジェクトメンバーが時に激しい議論を行いながら一丸となり業務に取り組んだことが、とても心に残っています。

エンジニアリング部 栗本 淳

 今回のプロジェクトで印象的だったことは、「海上工事は天気の影響を受けやすい」という事です。海上クレーン船を用いて大型設備を搬入する工事では、関係者も多くなるため、事故に対する危険度合いも高く、かなりの注意が必要でした。また、海上工事を行う上では、小型LNG船からのLNG受入に伴うスケジュール調整、工事に関する官庁への届出、クレーン船などの資機材や工事関係者の手配など、多様な事前準備を進めなくてはなりませんでした。しかし、いくら時間的な調整を行っても、気象条件が整っていないと安全性が確保できないため、強風や高波といった台風が直撃をするような場合には、工事を実施することはできません。海上工事の予定日に台風が襲来する場合は、全体の工事スケジュールに大きなズレが生じないよう、多くの関係者と日程調整を行うのが、とても大変でした。

経験が浅い中での難しい業務ですが、先輩や同僚とは、どのように関わっていましたか。

エンジニアリング部 橋本浩志

 私はこのプロジェクトに向けてエンジニアリング部へ配属となり、経験のない中でさまざまな業務にあたりました。若手であろうとやりたいと思ったことをやらせてもらえる雰囲気がありますので、部門内ミーティングでは、いつでも積極的な発言や提案ができ、さまざまな業務の中で自分の考えをチャレンジすることができました。しかし、若手が仕事を任されるということは、ほったらかしの放任主義ということではありません。長年建設を担当してきた経験豊富な先輩が多数いて、常に若手の仕事を気にかけてくださいました。困っている時やトラブルの際は、問題解決に向けて的確なアドバイスをくださり、時には一緒になって対応していただくこともありました。個人が孤立することのなく、一体感のあるチームのため、私自身が日々積極的に仕事と向き合うことができ、とても充実した仕事ができました。

エンジニアリング部 栗本 淳

 私も、上司や先輩、同僚などの人間関係にとても恵まれました。メーカーとの折衝や調整の中で課題が発生したときは、すぐに部内や他部門と緊急ミーティングを行い、メーカーへの対応方針などを決定することができました。私たちのような若い世代に対しても、上司や先輩、同僚はしっかりと意見を聞いてくださり、また、貴重なアドバイスもしてくださいました。こうした経験を積むことで、メーカー担当者との折衝でも、自分の意見に自信を持って、スムーズに調整していくことができるようになりました。エンジニアリング 部では個人の意見が尊重され、どのような意見でもきちんと協議されますので、バランスがとれた、とても素晴らしい職場だと感じています。

今回の経験を、これからどのように活かしたいですか。また、目標はありますか。

エンジニアリング部 橋本浩志

 製造インフラの建設では、同じものを造る場合でも、担当者の創意工夫でがらりと形が変わります。今回のプロジェクトで造りあげた海上桟橋も、今の最終形になるまでに多くの議論や検討を経ており、構造物一つひとつの形に意味があります。また、関係者との調整など目には見えないプロセスも含めて困難を乗り越えた経験は、自分自身の成長や大きな自信にも繋がりました。今後はこの経験を活かし、より良い建設工事に努めると共に、更なる技術的な知識や現場でのノウハウ を身に付けていきたいです。そして、将来的には、現在の建設業務だけでなく、幅広い業務を経験し、他部門を巻き込んだ新規プロジェクトを提案できる人材になりたいと思います。

エンジニアリング部 栗本 淳

 現在は一般社団法人日本ガス協会に出向中ですが、いずれは広島ガスに戻り、後輩を持つ立場になると思います。若手や新人を育成する際には、桟橋拡張工事で得た経験を活かし、技術的なこと以外にも調整業務でのノウハウなどを伝え、後輩が「生き生きと」仕事が出来るようにサポートできる先輩になりたいと思います。近年は、保安や防災の観点において「技術者の技術伝承」が重要視されており、若手の人材育成の場における主要なテーマとなっています。こうした中、いずれは私も、技術伝承に関するスキームの構築や若手のモチベーション向上に寄与する仕事に携わりたいと思います。

桟橋と橋本
桟橋機能拡大工事が完成した廿日市工場にて