達人 その限りなき挑戦 14
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(株)セブン-イレブン・ジャパン会長鈴木 敏文
撮影=大村 学

鈴木さん ――なるほど。真似ではない日本のコンビニが誕生したんですね。
 「そうです。アメリカから持ち込んだものは『セブン-イレブン』という名前と、一部の会計システムだけです。あとはすべて自分たち独自のやり方で、試行錯誤しながら積み上げたものです。おにぎりやお弁当がコンビニで売られていることなんて、今となってはあたりまえのことですが、当時としては全部新しい発想。『ごはんなんて家で炊けばいいんだから、おにぎりやお弁当が売れるわけない』って(笑)。そういうことの積み重ねがあったから、アメリカのセブン-イレブンが行き詰った時も、われわれは全部引き受けることができた。アメリカのセブン-イレブンは社会の変化に応じて、考え方、やり方を変えてこなかった。時代は大きく変わっているんだから、過去がそのまま通用するはずはないんです」
――新しく起きた問題に対しては、解決方法も新たに考えなくてはならない。
 「人間というのは困れば困るほど、過去の成功体験で問題を解決しようとする。これは絶対に通用しないんです。『俺の経験で言えば』って、これもダメ。『過去の成功体験を捨てなさい』。そうすれば新しいものが見えてくる。企業の歴史を見てもわかるでしょ。経営の三大要素と言えば『人・物・金』。では、人・物・金の揃った企業が、なぜダメになるんでしょう。それは、組織の中にいると、内部ばかり見て、外の状況を見なくなるからです。だから私は社員に言い続けている。『物真似をするな』『お客さまの変化、ニーズを汲み取れ』と。これからは、世の中の状況をきちっと見据え、お客さまのニーズを取り入れることのできる企業だけが、生き残っていけるんです」
――問題解決能力はどうやって磨かれたのでしょう。
 「そんなの磨いてない。本もあまり読まないし、経営学の勉強もしていない。ハウツウ本は特に、過去の成功体験や常識を全部まとめただけ。そのようなハウツウが実際の経営に通用するなんて思ってもいないから、読まないですよ。社内でも『そんな本読むな!』と言ってる(笑)。経営学を、いくら勉強したからと言って商品は売れないですねぇ。ところが、今や週に多くの情報番組や生活に関連したテレビやラジオの番組があります。それらの番組の中で「この野菜にはビタミンが豊富に含まれている」とか「この商品は健康によい」等と取り上げられた商品を店に揃えておくとその日のうちにパーッと売れるんです。」またお店で働く奥さん方の話も非常に参考になるんです。それが生きた情報ということ。要は、磨くとか、勉強するとかではなく、感度の問題だと思いますね」
鈴木さん ――ご自身の性格はどのように受けとめていらっしゃいますか。
 「う〜ん。ものぐさで、めんどくさがりやですねぇ。でも、性分として目の前に問題があると、それを解決しないと気が済まないようなところはあります。勝算あるなしにかかわらず(笑)。小さいころは引っ込み思案で、先生に『立って本を読みなさい』なんて言われると、もう、しどろもどろ。相当自意識過剰だったんだろうねぇ(笑)。ただ、子どものころから、どちらかというと勘はいい方でしたね(笑)」
――次の時代を生きる若い方にエールを贈るとしたら何でしょう。
 「そうですねぇ。情報の乏しかったわれわれのころとちがって、今は情報社会ですから、子どもたちも情報の中に晒されているでしょ。だから、いかに情報を取ってそれを絞るかということが必要。そのためには、情報を選択する力を育てていくこと。それと、自分で考える習慣を身につけること。何か問題が起きた時、どうしてうまくいかないんだろうか、じゃぁこうしてはどうだろうかと―過去の成功例ではなく、現在の生きた情報をとらえる力、考える能力を持って解決しようとする姿勢が必要だと思いますね」

 その顔に、歩いてこられた人生が満ち満ちている鈴木氏からのメッセージは明解でした。『過去にとらわれるな』『自分の頭で考えろ』。素敵な笑顔と新鮮な言葉。そして"ディアフォロン(最後までやりとげる)"。迷うばかりの人生に、自信をいただいたような気がしました。


鈴木 敏文プロフィール

長野県出身。昭和31年中央大学経済学部卒業。同年東京出版販売(現トーハン)入社。その後昭和38年イトーヨーカ堂入社。昭和49年コンビニエンスストア『セブン-イレブン』の出店をスタートさせる。平成4年イトーヨーカ堂社長、セブン-イレブン・ジャパン会長に就任。特にセブン-イレブンでは、POS(販売時点情報)システムを初めて本格導入し、消費者ニーズに基づく仕入れ、販売方法を確立。常に「変化対応」経営を目指し、我国最大の小売流通グループであるイトーヨーカドーグループを牽引する。また、新ビジネスへの挑戦意欲も衰えることなく、昨年は異業種参入銀行の第一号となる「IYバンク銀行」も立ち上げた。


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