達人 その限りなき挑戦 2
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  フルート奏者山形 由美
撮影=柳沢通隆
音声サービス

山形さん 自分のやりたいことを
主張するためにも
自分をプロデュースする力が
これからは
必要だと思うんです。

 ベビーピンクのドレス。フルートとオーケストラの共演。前夜、私は至福をもたらす天使に出会った。その余韻をそのままに、インタビュー室に向かった私の前に、再び柔らかなピンクに彩られた、山形由美さんの美しい笑顔が咲いていた。

山形さん ――衣裳はどのように選ばれるのですか。
 「共演してくださる方とお客さまと私がその時間を共有して、偶然のようにコンサートはできあがるわけです。そんな経験を重ねるうちに、自分の主張だけでは違和感が出る場合もあるかな?と。それで、季節や演奏する曲目に合せたり、あるいは、会場や共演者の方との兼ね合いで決めるようにしています。昨夜は『あたたかい』コンサートということで、自然にあのドレスに手が伸びましたね」
――息が直接「音」になっていくわけですから、健康管理は大変でしょう。
 「おっしゃる通り、フルートは息を直接管に通すだけで、ほかのものを介在させないで音を出す楽器ですから、乾燥と風邪には特に気をつけています。風邪をひいて、堪えながら演奏したことはいちどもないんです。一つには、常に気を張っていること。もう一つは、普段から深呼吸、腹式呼吸をしていますので、肺も内臓も知らないうちにトレーニングになっているのかな、と思っています。でも、数年にいちどくらい、休みが取れると思うと、急に風邪をひいてしまったり(笑)」
山形さん ――ところで、フルートを始められたきっかけは?
 「音楽結婚式のような楽しい披露宴で、フルートを演奏された方がいらして。息使いとか音色を間近で聞いて、それがビンビンきたんですね。それでこの楽器をやってみたくなって、披露宴が終わったその場で『教えてください』と。それまでピアノとクラシックバレエを習っていたのですが、親に言われて習っていたピアノはいやでいやで逃げ回っていました。やはり、やってて楽しいとか、自分に合っているというのでしょうか、バレエに夢中だったようにフルートもそうでした」
――フルートには何があったのでしょう。
 「今思うと、音色かなと。音が心に届いたというか、最初に聴いた音が忘れられないんですね。フルートのそれまでのイメージと違って意表をつかれたっていうか、冒頭部分のただ一音。いろいろな表情を持ったその一音にショックを受けたのでしょうね」
――永い道、迷いはありませんでしたか。
 「フルートを始めてからは迷うことはありませんでしたね。わりと興味のある方なので、いろいろ手を染めることもあるのですが、もし他に何か好きなものに出会っていれば、フルートをそっちのけでのめり込むかもしれないわけですよね。でもそこまでは至らないんですね。」
山形さん ――美しい姿を保ちつづけるための努力はいかがですか。
 「やはり、体力づくりを怠らないことと、自己管理というのが一番ですよね。日常生活の中でも、時間的な余裕があるからといって甘えられません。ツアーが毎日あることもありますから、一日の中でリズムを作って、それが一週間になり一カ月になり一年になる。そして、大きな目標、小さな目標を常に定め、その時その時にやるべきことを判断して、その積み重ねが、例えば一つのコンサートになったりするわけなんですね。すべては自己管理です。今年はツアーがあったので自粛しましたが、いつもは毎年秋に手作りのコンサートをやっているんです。ホールをおさえるところからチラシ作りまで、一年がかりで全部自分でやるんです。プレイガイドで今日はチケットが何枚売れた?とチェックしたり(笑)」
――ご自分でもいろいろなさるんですね。
 「確かに大変な仕事ですけど、いろんな面でプラスになっています。昨夜のように呼んでいただいた時、スタッフの裏の苦労が少しでも分かると、呼んで頂く時の気構えになるんです。それから、単に曲を演奏するというだけでなく、自分がやりたいことを主張するためにも、自分をプロデュースする力が、これからは必要だと思うんです」
――すると、これからの夢は?
 「歴史あるクラシック音楽の中で、どの辺りが自分に本当に合っているのかを探っていきたいと思っています。自分をプロデュースすることと合わせ、カラーを作るために、冒険をしていきたいですね」
山形さん ――10周年を機にプラチナのフルートに替えられましたね。
 「それまでの14金のフルートに比べ、音の広がりがあるんです。その分、吹きこなす技術も必要になるんですが、研究する過程で、新たな発見やこんな風に工夫すればいいんだということが、楽器の方からどんどん出てきます。ずっと同じことをやっていて、それに甘んじていると発展がないような気がしますから」

 あたたかな優しいオーラを発するフルートの天使は、実は厳しく自らを律する美しき探求者でした。一瞬の時を共有する多くの人々に深い愛を携えて、大きな喜びを奏でる。その心。その想い。文化を超え、国を超え、また新たな音楽の世界を拡げていかれるに違いない。


山形 由美プロフィール

東京都出身。4才からピアノ、ヴァイオリン、6才からクラシックバレエを学ぶ。立教女学院在学中にフルートを始め、東京芸術大学音楽部器楽科でフルート専攻。卒業後英国留学。1986年デビュー。以後、全国の主要オーケストラとの共演、ソロ活動の他、テレビ出演によって幅広いファンを獲得。92年、再度渡英。帰国後は一層深みを増した演奏で聴衆を魅了。国内はもとより、ベルリン室内管弦楽団、イ・ムジチ合奏団等と共演するなど、国内外で話題となっている。2001年秋には、デビュー15周年記念エッセイ集、「フルート,天使の声」(時事通信社)を発表。


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