達人 その限りなき挑戦 14
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(株)セブン-イレブン・ジャパン会長鈴木 敏文
撮影=大村 学
音声サービス

鈴木さん おにぎりやお弁当が
コンビニで
売られていることなんて
今となっては
あたりまえのことだけど
当時としては
全部新しい発想。

 28年も前に、日本の小売り業に革新をもたらした人物が、現・セブン-イレブン・ジャパン会長、鈴木敏文氏です。そしていま、かつてない程の大きな改革に取り組まなければならない私たちと日本にとって、改革を体現してこられた氏のメッセージは、大きな大きな財産となることでしょう。

――今はもう『セブン-イレブン』を知らない人はいないくらいに――
 「えぇ。でも当時は『日本でコンビニなんてやっても絶対に成功しない』という声が圧倒的でしたね。流通業界は言うにおよばず、イトーヨーカ堂の社内からも、大学のマーケティングの先生方からも言われました。アメリカでコンビニが成功していた理由は、すでに商店街の淘汰が進み、郊外の大型ショッピングセンターに車で買い物に行くライフスタイルが定着していたから、その時に買い忘れた物とか、日常のちょっとした買い物、例えばハブラシ1本とかファーストフードを買いに行くためのいわゆる補完機能があったからだという訳です。『その点日本の商店街には、お酒屋さんもあればお米屋さんもパン屋さんもある。商店街はまだ充分に機能している。そんな環境で、小さな店を作って食品や雑貨、お酒を少しずつちょこちょこと並べたって通用しないよ』だからダメだと。なにしろ、当時の日本は『大きいことはいいことだ』の時代でした。コンビニでその反対をやろうってわけですから理解されなかったのでしょう(笑)」
鈴木さん ――それでも、コンビニエンスストアをやろうと思われたのは――
 「当時の日本経済はずっと右肩上がりで成長しているのに、商店街はだんだんと衰退していく。そんな状況の中で、イトーヨーカ堂が出店の際、共存共栄の看板を掲げて『商店街の仲間に入れてください』と言ったところで、『大きなものを仲間に入れて、共存共栄なんてできるわけないじゃないか』と猛反対ですよ。当時のスーパーは、世に出たばかりで説得するノウハウも持っていなかったので、反対されるともうどうしようもない。それなら、われわれが実際に共存共栄の見本をつくって、みなさんに納得していただくよりほかないだろう、ということだったんです。そんな折に、アメリカにセブン-イレブンというコンビニがあることを知って、視察に行ったんです。中に入って見ても、なんてことはない店でした。しかしすでに4000店の店があるということは、われわれには計り知れない何かがあるにちがいないと、勝手に思ったわけですよ(笑)」
――計り知れない何かはありましたか。
 「いやぁ。アメリカに行っていろいろトレーニングを受けましたが、結論から言えば『小売業というのはドメスティックなものなんだ』ということを思い知らされただけでした。つまり、条件の異なる場所、アメリカの経営システムをそのまま日本に持ち込んでも役に立つはずがないではないかと、研修3日目に気がついたんです。私の人生の中で最大のショックでした。反対を押し切って、仲間を連れて来てるでしょ。いまさら失敗でしたなんて言えない。それから毎日、どうすれば日本に合ったコンビニエンスストアがつくれるかということを考えた―あきらめようとは思わなかったですね。なんとかなるんじゃないかと。確信があって思ったわけではないんです。自分に言い聞かせていたのですがね。ですから私は、向こうのシステムなど勉強しながら同時に日本に合ったやり方を考えたわけです」
――ともかく学んで、システムなどを日本に持って帰られた?
鈴木さん  「先程も言いましたけど、当時のアメリカのセブン-イレブンは、住宅街の近くにお店をつくって、ちょっとした生活必需品や雑貨、ファーストフードを置いているだけでした。アメリカはそれでいいんですが、日本では成り立たない。だから、ここはこうしよう。これはこんな風に変えようと、ひとつひとつ作り変えていった。すると『一体あなたは何を学びにアメリカまで行ったんだ』ということになるんです。一緒に行った仲間は、一所懸命勉強して教えてもらった通りをやろうと言う。『それではダメだ』と私もガンとして譲らない。冷凍のハンバーガーをやめて、弁当やおにぎりにする。お店もわれわれが作るのではなく、共存共栄でお酒屋さんや商店街の食品店の人に加盟していただく独自のシステムにすると言う。すると『それは、一度アメリカのやり方を実験してからの問題だ!』と、ここでも対立。でもみんなわかっていたんです。日本人は味にうるさいとか、共存共栄でやっていかないと、これからは成長できないっていうこともね。それで、ほんとに幸いだったのですが、東京豊州のお酒屋さんから『ぜひやってみたい』と申し入れがあったんです。それが日本のセブン-イレブンの1号店になって始まったんです」

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